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京都地方裁判所 昭和44年(む)141号 決定 1969年7月04日

被疑者 山田治雄 外二名

決  定

(被疑者等氏名略)

右の者らに対する兇器準備集合被疑事件につき京都地方裁判所裁判官が昭和四四年七月三日になした各勾留請求却下の裁判に対し、京都地方検察庁検察官から適法な各準抗告の申立があつたので当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件各準抗告の申立はいずれもこれを棄却する。

理由

一、本件各準抗告申立の趣旨、理由はいずれも別紙第一のとおりである。

二、一件記録を検討するに、被疑者らは、いずれも、昭和四四年六月三〇日別紙第二に記載の軽犯罪法一条二号違反の被疑事実に基づき司法警察職員により現行犯逮捕され、次いで同年七月三日、京都地方検察庁検察官から京都地方裁判所裁判官に対し、別紙第三に記載の兇器準備集合の被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由があり、かつ刑事訴訟法六〇条一項各号に該当する事由があるとして各勾留請求を受けたところ、同日、右裁判官から別紙第四に記載の理由により右各勾留請求却下の裁判を受けたことが明らかである。

三、ところで、我現行刑事訴訟法が被疑者の勾留につきいわゆる逮捕前置主義を採用している法意に鑑みるときは、勾留請求が認容されるためにはそれに先立つ逮捕手続が適法であることを要すると解さなければならない。

そこで、被疑者らが前記軽犯罪法違反の現行犯人として逮捕された当時の状況につき一件記録を検討するに、各被疑者に対する現行犯人逮捕手続書、当時の状況を現認した司法警察職員の作成にかかる各供述書、捜査報告書ならびに当時の状況を撮影したビデオテープにつき当裁判所が行つた事実調の結果などによるも、被疑者らが貨物自動車荷台上に鉄棒、鉄パイプなどの器具を満載していた状況は、その上にシートがかぶされていたとはいえ、右自動車の後方から一見して明確に現認できる状況にあつたと認められるので、被疑者らの右器具携帯の態様には公然性があつたというべく、被疑者らにおいて前記の如き器具を「隠して」携帯していることが要求される軽犯罪法一条二号の構成要件に照してみても、当時被疑者らが本件軽犯罪法違反の被疑事実を犯したことの明白な嫌疑が現存していたとは認められない。従つて本件各現行犯逮捕は、いずれも、司法警察職員において現行犯逮捕の要件が具備されていないのにこれあるものと誤認して行なつた違法な現行犯逮捕であつたといわなければならないところ、我現行刑事訴訟法が被疑者の勾留につき逮捕前置主義を採用している点、逮捕の手続を厳格に規制している点、逮捕自体については被疑者に何らの不服申立の方法を認めていない点などからして、右違法はそれに続く当該被疑者についての勾留請求を不適法ならしめる性質のものと解すべきものと思われる。

四、そうであるとすれば、本件各勾留請求は、その余の点につき判断するまでもなくいずれも不適法として却下すべきことが明白であるから、これを却下した原裁判はいずれも結局相当であり、本件各準抗告の申立はいずれもその理由なきものとして刑事訴訟法四三二条、四二六条一項によりこれを棄却すべきである。

よつて主文のとおり決定する。

(別紙略)

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